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粘土ライオンの墓場 [Thoughts]

子どもの頃にしばしばかけられた、「お前は人の3倍は努力しないと人並みにできないんだからな」という言葉があった。それは別に自分に限った話ではなく、子どもを叱咤するときの、普遍的なフレーズだったはずだ。

ということは、「お前はたとえ人の3倍努力しても人並みにしかならない」と言っているのと同じことだから、よく考えてみれば、なかなか絶望的なメッセージだけど、ぼくは「そうか、自分は人の3倍努力しないと人並みにできないんだなあ」と、素直に納得していた。それが事実であることは明らかだったから。



人が普通にできる(らしい)ことがぼくには全くできない、ということがしばしばあって、そのひとつが「ものごとを最初からはじめて、段階を踏んで、完成に至る」ということだ。何をするにしても、一度手を付けてカタチにしてみないと、どうやればいいのか、わからない。あるいは、同じ結果を出すのに、人と同じやり方ではどうしてもうまくいかない。大人になった今ならば、「結果とプロセスをイメージすることが苦手」と表現するだろう。

とにかく一度手を付けてみる必要がある。その結果「そのやり方ではない」ことがわかる。だから「別のやり方」をやってみる。何回もそれを繰り返すうちに、最終的には正しい結果に落ち着くことが多い。

それが、ぼくが何かをやったり、作ったりする方法だ(たぶんそれがアウトライナーが好きな大きな理由だ)。その繰り返しのしつこさは、ぼくが人に負けない自信を持っている数少ない分野だけど、完成に至るまでのプロセスはめちゃくちゃだ。

問題は、世の中ではものごとは決まったプロセスに基づいて、一から段階的に、順番に行なわれるものだ、という観念が浸透しているらしいことだ。



二度目に就職した会社は、社長を含めて社員3人だけ、という小さな会社だった。大学院を休学して入ってきたぼくに、社長のYさんは丁寧に、手取り足取り仕事を教えてくれた。

最初に与えられた仕事で、Yさんは「途中までやっておいたから、続きからやってくれればいいよ」と言った。仕事に慣れていないぼくのために、そうしてくれたのだ。

「他人が途中までやったことを引き継ぐ」ことは、ぼくには全く不可能なことだった。単純に、何をどうすればその続きになるのかわからないし、最終的にどんな状態になればいいのかも全くイメージすることができないのだ。

ぼくは最初からやり直すことにした。数時間作業をすすめて、何回か戻ってやり直しているうちに、徐々に仕事の全体像が見えてきた。どんなふうに仕上げればいいのかも、はっきり分かってきた。

そこにYさんがやってきて、「調子はどうだい」と言った。ぼくは、ちょうどYさんがぼくに引き継いだあたりまでの仕事を終えたところだった。言葉を変えれば、Yさんがやったところから、一歩も先に進んでいなかった。Yさんはひと言、「後はおれがやるからいいよ」と言った。ぼくの中で仕事は完璧に、素敵に成し遂げられていた。でも、現実のこの世にそれは存在していなかった。

その種の出来事は、何もそのときに始まったことではなく、物心ついたときから常にぼくについて回る、ぼくの一部分みたいなものだ。ぼくの中には、そのようにして生まれた無数の「確かに存在しているはずなのに、この世にはないもの」たちがいる。

脳内イメージでは、それはライオンたちだ。



幼稚園の頃、授業参観みたいなものがあって、クラスの様子をお父さん、お母さんたちが見学する、ということがあり、ぼくの「さくらぐみ」は粘土で「ライオン」をつくることになっていた。

途中まで「ライオン」をつくりかけたところで、より良い「ライオン」の作り方がひらめいたぼくは、粘土を丸めて作り直すことにした。

その直後、何の予告もなく、先生は「はい、そこまで!」と言った。
「さあ、作ったライオンをお母さんたちに見てもらいましょうね」

みんなの前には「(それなりの)ライオン」があって、ぼくの前には「途中までできたライオン」でも「より良いライオン」でもない粘土の塊があって、「何もやっていない」ことを責められていた。

ライオンはぼくの中には確かに存在していたけど、この世のどこにも存在していなかった。生まれてこなかったライオンは30年以上の間、少しずつ仲間を増やしながら、ぼくの中に眠っている。



大人になったぼくは、同じようにライオンたちの墓場を抱えている人が世の中にたくさんいることを知っている。大人になっていないぼくに教えてあげられればよかったと思う。

大人になったぼくがもうひとつ知っていることがある。もしぼくらに人の3倍努力しなくてもできる素敵なことがあるとしたら、その何かは、ライオンたちとつながっているということだ。

そのためのやり方が、必ずある。それを見つけなければならない。
ライオンたちは、ぼくらの守り神でもある。

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